弊社のDX認定制度が2026年8月に更新の時期を迎えました(手続番号: DX-2022-08-0004-03)。2002年8月に認定を取って2回目の更新。本制度は、デジタル推進の準備が整っている企業を国が認定する制度で、融資の利率優遇や補助金の加点項目になったりといくつか恩恵はあります。当社が必要とするような優遇は今のところないので、業務特性上認定を維持しているというところでしょうか。

 認定制度の話だけを書いても仕方ないので、日ごろクライアントからよくいただく質問「そもそも中小企業にとってのDXって何なのか?IT化と何が違うのさ。」について、私なりの整理を書いておきたいと思います。

DX(デジタルトランスフォーメーション)の元来の定義は、かなりシンプルです

 経済産業省の定義を読むと、

データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革し、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。

 なかなか大上段に構えた仰々しい文章が並びます。間違ってはいないのですが、従業員数名から数十名の会社の社長がこれを読んで「よし、うちもやろう」とはならないですよね。中小企業や小規模企業を支援している立場からすると、なかなか自分事に置き換えにくい。取り組むとしたら、ビッグプロジェクトな印象を持ってしまわないか危惧しています。実際、経産省の「中堅・中小企業等におけるDX取組事例集」をみてみると、なかなか良い事例が書かれていますが、この定義から感じるほどの大きなものばかりではありません。

 そもそもDXの定義はバラバラです。こういうときは、元々の出所をたどるのが一番ですが、これを見るとずいぶん印象が変わります。DX(デジタルトランスフォーメーション)という概念は、2004年にスウェーデンの大学教授が提唱したものです。

The digital transformation can be understood as the changes that the digital technology causes or influences in all aspects of human life.

出典:Erik Stolterman & Anna Croon Fors, “Information Technology and the Good Life,” IFIP WG8.2, 2004, p.689(PDF: https://ifipwg82.org/sites/ifipwg82.org/files/Stolterman.pdf

 これに、論文のタイトル「Information Technology and the Good Life」を踏まえて訳すと、

デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、デジタル技術が人間生活のあらゆる側面に対して引き起こす、または影響を与える、よい変化のこと。

となります。ずいぶん素朴な定義になります。

 つまり、目新しいことではなく、デジタル技術を活用して、業務やら業績やらに好影響を与えれば、それは十分なDXです。

デジタル化は「入れたかどうか」、DXは「良くなったかどうか」

 じゃあ、DXってIT化のことじゃん。難しくしただけね。

と思った方もおられるかもしれません。それは違います。デジタル化とDXの違いは、「より良い方向への変化や影響を生み出せているかどうか」です。これは先ほどの元来の定義から明らかです。

 デジタル化は、導入していればいい。極端に言えば、それだけです。DXは、それを活用して仕事や人が良い方向に変わっているかどうか。この違いだけを押さえておけば、実務では十分だと思います(著者注: 厳密にはデジタル化は電子化とデジタル活用にの二段階になるのですが、ここでは簡単にするため分けずに書きます)。

 たとえば、DXにならない最たる例は、クラウドシステムを導入した結果、既存の業務プロセスとの整合性が悪く、結果的に業務量が増えて、弊害になる部分が圧倒的に多く、かといって誰も元に戻すという判断ができていないという状態です。デジタル化はできたが、DXにはなっていないということになります。デジタル化もできているか怪しいところですが…

 以下、私が実際に関わった例を中心に、いくつか挙げてみます。「DX度」は私の感覚値です。

例1:人事評価シートをExcelからクラウドへ(DX度 70%)

 ある会社の人事評価シートを、Excelシートの配布・回収から、クラウドの評価システムに移行する助言をしました。

 Excel時代は、各評価者が自分のシートに記入してメールで送り返す運用でした。ところが、勝手に行を足す人、様式の古いファイルを使い続ける人、そもそも期限に出さない人が、必ず出ます。人事担当者は、集める・体裁を揃える・転記するという、残業につながる作業をしていました。

 システムに移してからは、入力制御がかかるので記入漏れや様式のばらつきが起きません。個別にファイルが送られてくることもなくなり、帳票が一定になりました。ここまでは、「デジタル化してラクになった」という話です。

 大切なのは、この先です。評価が一覧で並び、レポーティングも様々な切り口で表示できるようになったので、「この部署だけ極端に評価が甘い」「この評価者は毎回中央に寄せている」といった違和感に気づきやすくなりました。さらに、社員がどんなスキルを持っているのかが横並びで見えるようになり、異動や育成の議論の材料に使えるようになった。集計作業が減ったこと以上に、こちらのほうが効いています。ここまで来て、DXと呼んでいいと思います。

例2:レッスン予約を電話・メールからWeb限定へ(DX度 80%)

 こちらは、ある小中学生向けのレッスンを、様々な場所で行なっている企業の予約方式を原則予約管理システム経由にした例です。助言だけでなく実際に移行作業も弊社で取り組んだクライアントです。

 それまでは電話とメールと直接の申し出が混在していて、受付担当者が電話とメールからエクセルに転記して管理していました。当然、聞き間違いも書き漏れも起きます。そのため、原則として電話・メールでの予約を廃止し、基本的に予約管理システムから予約してもらうようにしました。

 事務専任者はおらず、指導員が事務作業も行なっている小規模な会社なので、この変化は大きかったです。ここまででも、良い変化を生んでおり、DXとしてよいでしょう。

 さらに、効果として大きかったのは、受付の手間が減ったことに加えて、リアルタイムに指導員全員がレッスンごとの申し込み人数を正確に把握できるようになったことです。人数が事前に分かれば、指導員を急きょ増やしたり、配置も変えられます。要するに安全対策の意味で質が向上しました。

例3:チャットツールを導入した(DX度 0%)

 これは、私の支援例ではなく、私に相談があったときに、失敗例として伺ったものです(開示許可はいただいております)。

 社内にチャットを入れた。これはデジタル化です。ところが、結局は電話とメールとチャットの三重運用になり、確認すべき場所が増えただけになった——という会社さんです。良い方向への変化ではないので、DXではありませんし、そもそもデジタル化としても失敗しています。

 道具を足しただけで、全体の業務プロセスの見直しがおざなりになってしまい、負荷が増えてしまっている。結構多くの会社で耳にする事例です。ただ、導入当初はうまくいくと思って導入しているわけで、後から思わぬ障害にぶつかった結果、こうなっているので、引くに引けずそのままになってしまって、悪化してしまったという会社さんも少なくありません。

「DXをしなければ」から入ってはいけない

 いま、「DXをしないと生き残れない」「生成AIを使わないと遅れる」「人手不足はこのツールで解決できる」といった広告が、それこそ毎日のように流れてきます。これをみて、焦る気持ちはよく分かります。もちろん、決して悪いことではなく、その気持ちをもとに、セミナーに参加したり本を読んだりして学ぶことは非常に重要なことです。

 ただ、広告に踊らされて、このツールを入れれば人手不足を解消できるのでは…というような、厳しい言い方をしますが、浅はかな幻想は一旦脇に置いてください。考える順番は逆です。

  • いまの自分たちの業務を効率化するには、何が必要か
  • 自社の付加価値を上げるには、何が必要か

 まずこれを考えましょう。そして、その「何が必要か」の答えが、たまたまIT関連、目にした広告にでてきたツールのことであったなら、そのときは真剣に導入を検討しましょう。その結果として、あとから振り返って「これはDXだったね」ということになる。この順番が大切です。

 ITを活用する前提でものを考えてはいけません。「うちも何か生成AIを使えないか」から始まった検討が良い結果になったのを、私はあまり見たことがありません。逆に、「この転記作業、毎月30時間かかっているんですよ」という具体的な困りごとから始まった相談は、たいてい良い結果になります。水平展開・横展開も進みます。先ほどの3つの例も、すべて後者からの出発でした。

 ちなみに、答えが「IT関連ではなかった」という結論も、まったく問題ありません。業務の順番を入れ替えるだけで解決することも、そもそもその業務をやめてしまえば済むことも、実際にあります。DXは目的ではないので、やらないという判断も普通にあり得ます。

仕事の中心には、人がいる

 よほど特殊な仕事をしていない限り、仕事の中心には人がいます。価値を出すのも人。効率化されて助かるのも人。ITツールは、それをサポートするための道具に過ぎません。

 「DXのためにシステムを導入しなければならない、そして人がそれについていかなければならない」という状態になっていたら、それは本末転倒です。導入したはいいが現場が使いこなせず、結局は二重入力が発生し、誰も楽になっていない——という光景を、私は何度も見てきました。それは人の能力の問題ではなく、道具の選び方と入れ方の問題です。

 道具に人を合わせるのではなく、人の仕事に道具を合わせる。使いこなせる。順番を間違えないことが、中小企業のDXでは特に大事だと思います。

「うちはアナログすぎて、ITの知識もなくて…」というとき

 そう自覚されている会社ほど、実は伸びしろが大きいのですが、いきなり自力で進めるのは難しいのも事実です。そういうときは、知識が豊富な専門家に頼るのが一番早いです。

 ただし、最初に何かの広告で目にしたベンダーを呼んで話をするのは、あまりおすすめしません。悪意があるという話ではなく、ベンダーは自社製品を売るのが仕事ですから、どうしてもその製品で解決できる形に話が誘導されがちです。自社の課題が何なのかがまだ整理できていない段階でそれをやると、「入れたけれど良くならなかった」の典型的なパターンに入ってしまいます。

 月並みではありますが、まずは、特定の製品を売る立場にない中立なコンサルタントに相談する。これが一番の近道です。相談先としては、たとえば次のようなところがあります。

公的・準公的な窓口(無料〜低額)
  • 商工会議所・商工会の経営相談窓口、専門家派遣(エキスパートバンク等)
  • 都道府県ごとの「よろず支援拠点」
  • 中小企業基盤整備機構(中小機構)の窓口相談
  • 各都道府県の産業振興公社、中小企業支援センター
  • 自治体が実施しているDX伴走支援・専門家派遣事業
製品に中立な専門家(有料)
  • 中小企業診断士(特にIT経営を得意とする方)
  • ITコーディネータ(経営とITの橋渡しを役割として定義された資格です)
  • 独立系のITコンサルタント、情報システム部門代行・CIO代行サービス
  • 顧問税理士、社会保険労務士(会計や労務まわりの業務実態を最もよく知っている存在です。ここが入口になることも多いです)
  • 金融機関の本業支援部門

 なお、IT導入補助金の「IT導入支援事業者」は、公的な制度に登録されてはいますが、立場としてはツールを売る側です。中立な相談先ではない、という点を理解したうえで付き合うのが良いと思います。補助金ありきで検討を始めると、補助対象になっている製品のなかから選ぶことになり、本来の課題からずれていきやすい。これも実務でよく見る落とし穴です。

 コンサルタントにはあくまで相談料だけ支払い、その助言に沿って部分部分でベンダーと付き合うという形をお薦めします。たしかにこの一面だけ見ればコスト高になりますが、コンサルタントと話をする社員、つまり窓口社員を、ITに詳しい人材として育てたい社員に絞り、人材育成にもつなげるという風に考えれば、あながち高いともいえないかもしれません。

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