
冨山さん、部下から相談を受けたら、できる限り応えてあげるのが今の時代の上司ですよね?
先日、ある管理職の方からこう聞かれました。おっしゃることはよくわかります。ただ、私は少し立ち止まって考えたほうがよいと思っています。
「困っている」は、その人の主観
年収1000万円でも生活に困っている人がいます。300万円でも特に困っていない人がいます。
性格的に「困っている」と言いたくない人もいれば、早い段階で声を上げる人もいます。生活が質素で支出の少ない人もいれば、見栄やステータスを重んじる人もいます。生活水準を下げることに抵抗がない人もいれば、どうしても受け入れられない人もいます。職場の人間関係でも、周囲の対応に過敏な人と、まったく気にしない人がいます。
つまり「困っている/困っていない」は、その人の中でだけ成立する基準です。それをそのまま判断の土台にすると、判断を誤ることがあります。
Aさんのための対応が、Bさんの不満になる
もちろん、困っているという声は大切です。ただ、一人の「困っている」を基準に手を打つと、その人は満足するかもしれませんが、他のメンバーからはただのえこひいきに見えることがあります。
ハラスメントへの意識が高まったこともあり、部下一人ひとりの「困った」をなんとか解決しようとする上司の方が増えました。通報されたくない、辞められたくない。その気持ちは自然なものだと思います。
しかし、Aさんのために良かれと思ってした対応が、他のメンバーの不満を生み、結果的に別の誰かの離職や、「あの上司は不公平だ」というレッテルにつながることがあります。
「みんな我慢しているんだからあなたも我慢しろ」が正しいと言いたいのではありません。職場の目的は、全体をよくしていくことにある、ということです。
完全に解消しなくてよい
Aさんの不満は、完全には解消されないかもしれません。
ただ、よほどワガママな方でないかぎり、「何か対応してくれた」という事実さえあれば、職場の風土も本人の環境も改善していくものです。それでも退職を選ばれる方は、そもそも辞めるつもりで、強気に相談していただけかもしれません。
ネガティブな要素を減らそうと努力するのは素晴らしいことです。ただ、視野が狭くなって、毅然とした対応ではなく、阿(おもね)った対応になっていないか。そこはよくよく考えたいところです。
判断に困ったときのために、あなたにも上司がいる
管理職にも上司がいます。人事部もあります。自分ひとりで抱え込む必要はありません。
逆に、その上司も人事部も相談に乗ってくれないような会社であれば、あなた自身が転職活動を進めることも大切です。中間管理職がこうしたことを自分で考えて判断するのは登竜門だ、と考える会社は今も多いのですが、昔と違って社会的な制約が強い今、その価値観のまま中間管理職に接するのは難易度が高すぎると私は思います。
自分の価値を見直そう
管理職になると、それまでとは質の違う仕事に追われて、自分の価値を見失ってしまうことがあります。
私は、転職活動の中で自分の価値に気づき、自信を持てたことで、堂々と部下に接することができるようになった方を複数知っています。ある意味、私自身もそうであったかもしれません。転職活動に抵抗がある方は、外部のキャリアコンサルタントやコーチに相談してみるのでもよいと思います。
部下の「困っている」に振り回されないための土台は、案外、あなた自身が自分の価値を把握することなのかもしれません。




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