いままで私に風土改革の仕事をご依頼くださった方には、少し失礼になる内容も含まれていますが、それも踏まえて、組織風土改革について「壁」という観点から記事にしていきたいと思います。

 どんな仕事でも「壁」というのはありますが、風土改革にも進めていく過程で「壁」が見えてくることがあります。プロジェクトの契約をするときには、私は責任を持って仕事を請けるべく、いくつか確認することがありますが、主なものは以下の通りです。

  • 誰がプロジェクトのオーナーか?オーナーは、風土改革にどれくらいの時間軸をもっていて、どういった成果を期待しているか?リーダーを指名した理由は?
  • 誰がプロジェクトのリーダーか?どういう意識でリーダーを引き受けたか?リーダーとして、どういうプロジェクトにしたいか?
  • 当社へお支払いいただく委託費以外に、プロジェクトで使える予算はどれくらいあるか?
  • プロジェクトを進めていく上で、どのような制約があるか?(勤務形態、依頼いただいた単位が本部だとして、本部単位では契約できないこと、など)
  • プロジェクトのコアメンバーの評価割合(ボランティア活動化しないため)

 この回答内容に基づいて、私は風土改革の想定を立て、認識を共有します。要望している成果次第では、この想定や条件を修正することで、すりあわせを行なっていきます。

 当初は予定通りに進んでいきますが、進んでいくにつれて、「壁」がでてきます。

 風土改革は、多くのメンバーが集まって何かをやっている割に、なにも決まっていない、という印象を持たれることがあります。逆に、活動の過程で、誰かの既得権益に踏み込むこともあります。こういうときに、風土が悪い会社ほど社員の思考が自分中心になっていくものなので、自分にとって目に見えた成果がないかぎり「なにもしていないじゃん」という台詞を吐きたくなるような心境になりがちです(本気でそう思っているとは限りません)。そういった声に加え、「プロジェクト、期待したほどじゃないじゃん」「風土改革の打ち合わせに時間を割いてるけど、グループの仕事に影響出てるのわかってる?」などと、色々と言われるようになります。

 プロジェクトオーナーも同様です。役員報告の場などで費用対効果に対する不満を表明されたり、誰かの既得権益を侵害しているときには、強烈に反対されたりすることがあります。

 このような周囲の影響を受けて、プロジェクトメンバー一人ひとりの意識差がだんだんと生まれてきます。《周囲の声が気になってしまう》人、《責任を取りたくない》人、《そんなつもりじゃなかった》人、《えっ、その領域に踏み込むのは…と思ってしまう》人。

 まさに、ハレーションという「壁」が生まれるわけです。ですが、この壁が生まれないのでは風土改革は進捗しているとは言えません。私もこれまで様々なプロジェクトを支援してきましたが、必ずこの「壁」にぶち当たります。壁がなかったプロジェクトはひとつもありません。成功するプロジェクト、すなわち期待成果に到達したプロジェクトは、この壁を乗り越えてきます。一方、失敗するプロジェクトは壁を乗り越えることなく、なぁなぁの活動になり、そのまま自然消滅していきます。

 では、この「壁」はどのように乗り越えるのでしょうか?

壁を乗り越える3つのポイント

 壁に当たったときには、次の3つがうまくいけばたいていうまくいきます。

  • オーナーがプロジェクトの軸を意識し続ける
  • リーダーのメンタルサポート
  • オーナーまたはリーダーが、メンバーの上司や周辺に働きかける

① オーナーがプロジェクトの軸を意識し続ける

 風土改革は根幹に関わるものとはわかりつつも、費用対効果が見えにくいところがあります。たいてい誰かの既得権益に踏み込まなければ風土改革は進みませんので、その対策に時間がかかることやオーナーの上司(オーナーが社長ではない場合は、社長)への具体的な働きかけが必要になることがあります。

 さらに時間が経つほど、周囲からは色々な声が飛んできます。「期待したほどじゃないじゃん」「業務に影響が出ている」「もっと違うやり方があるんじゃないか」こういった声に、オーナー自身が一番揺さぶられます。

 ここでオーナーがブレてしまうと、プロジェクトはあっという間に迷走します。「やっぱり、もう少し早く成果が見えるテーマに変えよう」とか、「現場の反発が大きいから、この施策はやめておこう」とか軸が動いていく。すると、リーダーやメンバーは「結局、何のためのプロジェクトだったんだっけ?」と感じ始め、ここからプロジェクトは静かに崩れていきます。

 オーナーに必要なのは、最初に握った「何のためにこの風土改革をやるのか」という軸を、雑音の中で持ち続けることです。これは派手な仕事ではありません。むしろ地味です。それでも、軸が揺らがないオーナーがいるプロジェクトでは、リーダーもメンバーも安心して動けます。

 私が契約時に「オーナーは、どういった成果を期待しているか」をしつこく確認させていただくのは、ここに理由があります。あいまいな期待のままスタートすると、雑音に対する耐性がそもそも弱くなるからです。

 正直、外部の立場で一番大変な場面は、オーナーが変更になる場合です。営業本部長がオーナーだったとき、営業本部長が異動になった場合は当然オーナーも変わります。このときが一番大変です…

② リーダーのメンタルサポート

 リーダーが一番メンタルを消耗するのは間違いありません。リーダーが心が折れると、プロジェクトは一気に止まります。リーダーの代わりは、そう簡単には立てられないからです。これは、オーナーやリーダーの直属の上司、外部支援者の役目です。

 オーナーは、リーダーに「あなたを信頼している」「困っていることがあれば直接言ってほしい」というメッセージを、定期的に届けることが肝要です。これがあるだけでリーダーの踏ん張りはまったく違ってきます。逆に、オーナーが「あとは任せた」と丸投げモードになった瞬間、リーダーは急速に孤立していきます。

 私自身コンサルティングの中で、リーダーと一対一で話す時間は意図的に作るようにしています。プロジェクトの議論だけではなく雑談に近い時間にすることもあります。リーダーの辛さというのはわかっているつもりですし、「自分の辛さを分かってくれている人がいる」と感じられるだけで、壁を乗り越える活力を維持できる場合も多いです。

 風土改革においては、リーダーの心身の健康を支えることは、ある意味でプロジェクトの進捗管理そのものです。

 また異動の話ですが、リーダーも異動になることはあります。異動が致命的かというとそうでもないです。先発からリリーフにピッチャー交代するようなイメージで捉えてもらえると良いと思います。

③ オーナーまたはリーダーが、メンバーの上司や同僚に働きかける

 壁がうまれたときにプロジェクトメンバーが困るのは、プロジェクト内というよりも、プロジェクトの外です。すなわち本業の上司や同僚からの圧力にメンバーが苦しめていることが多いです。

 「プロジェクトに時間を取られて、本業の数字が落ちている」「あの会議、本当に必要なの?」「お前、そんなことやってる場合じゃないだろう」こういった声を日常的に浴びるメンバーも見てきました。これを自力でなんとかするメンバーばかりではありません。やはり、オーナーやリーダーが、メンバーの上司や同僚に直接働きかけることが必要になります。

  • プロジェクトの意図を、改めて関係者全体に説明する場を設ける
  • メンバーの上司に、プロジェクトの意義と進捗を、定期的にオーナー自身の言葉で説明する
  • 評価期間が来る前に、コアメンバーの評価について、上司と個別にすり合わせる
  • 「メンバーがプロジェクトに時間を割いていることは、上層部としても認めている」というメッセージを、組織として明示する

 こういったサポートをやらないと、メンバーは「自分はプロジェクトに本気で取り組むほど、本業で損をしている」と感じ始めます。そうなれば、メンバーの意識差は、放っておいてもどんどん広がっていきます。

 メンバー本人に「気にしないで、プロジェクトに集中して」というのは、ある種の責任放棄です。メンバーが安心して動ける環境を整えるのは、オーナーとリーダーの責務です。

 ちなみにこのシーンでは、外部の支援者は、対応方法について助言することは意味があっても、あまり前面に出ない方が良いというのが私の見解です。そもそもコンサルが前面にでる風土改革は持続性が低下します。

おわりに

 風土改革の「壁」は避けるものではなく、向き合うものです。

 私が見てきた「自然消滅してしまったプロジェクト」は、たいてい、このどれかが足りませんでした。よく異動したタイミングで終わると言われることがあります。たしかに、キーマンの異動によって止ってしまうプロジェクトもあります。ただ、それがすべてかというとそんなことはありません。異動してむしろ動きがよくなったプロジェクトもあります。

 置かれた環境、与えられた環境、与えられた制約の中で最適なプランを考えるのが外部の支援者の仕事の本丸だと思っています。リーダーの動きが悪いからと、外部のコンサルが役割を取って代わろうとしたり、介入しすぎるとたいていうまくいかないものだと私は思っています。

 やはり、内部の力を最大限発揮すること、それが風土改革がうまくいく秘訣だと思っています。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次