議論をするときは、言葉を合わせ背景知識を整える

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クライアント先でファシリテーションをしているときに、私が意識することの一つとして、「使われている言葉」と「その言葉を発した背景知識」などを丁寧に整理することが挙げられます。それぞれ、どういう風に整理するか、3つの場面に分けて書いていきたいと思います。

「使われている言葉」の整理

たとえば、こんな会話があります。

これあらた

御社の風土についてどう思いますか?

Aさん

ウチの会社、風土が良いよね

Bさん

確かに良いよね、風土。

これあらた

なるほど。では、風土が良い状態って具体的にはどういう状態ですか?

Aさん

んー、給料が良くて休みやすい。

Bさん

えっ?そういうことなの?ボクは、人間関係が温和だからそう思ったんだけど。

実際にあった会話ですが、Aさんが示唆している「風土の良さ」とBさんが示唆している「風土の良さ」はまったく違いますよね。そもそもAさんのは一般的にいう「風土」にあたるかは微妙ですが…そういうことも含めて、どういう意図でその言葉を使っているかを整える必要があります。

その言葉を発した背景に踏み込む整理

次に、まったく違う職種間でおこなう議論で起きがちな話題に触れます。

これあらた

より一層、業績を高めていくためには、どういったことが必要でしょうか。

Aさん(開発部門)

製品の品質の良さをアピールしないといけない

Bさん(営業部門)

いやいや、そういうプロダクトアウトな発想じゃなく、お客さんにとっての製品の良さをアピールしないといけない

これあらた

「品質の良さ」「製品の良さ」という言葉が出ましたが、Aさんが考える品質の良さとは?色々あると思いますが、もっとも大切なもので言うと?

Aさん(開発部門)

とにかく壊れにくいこと

これあらた

なるほど。では、Bさんが考える製品の良さとは?

Bさん(営業部門)

当社の商品は、トップブランドではありません。ですから、大手家電メーカーと比べると、「本当に故障しないの?大丈夫なの?」と思われがちです。大型で長くお使いいただくものですから、機能も重要ですがなにより壊れにくいことと思います。故障や壊れたときの交換コストもお客さまにとってはバカになりませんから。ですので、壊れにくく安いものということになります。

これあらた

では、お二方とも理由は違うかもしれませんが「壊れにくい」ということを最重要視しているのですね。

AさんBさん

はい

これあらた

なるほど。ではとにかく壊れない商品を作り、壊れないことをきちんと伝えていくことが一番大切というところは同じですね。それが、業績を高めていくために最重要というところは合っています?

Aさん(開発部門)

はい。その通りです。実は、営業さんって、何をアピールして売っているかよくわかっていなかったんです。我々が壊れないということを重視していることが伝わっているのかどうか…今日それがわかったので、自信が持てました。

Bさん(営業部門)

いえいえ、私も開発さんがそんなに壊れないことを重視しているとは思ってもいませんでした。お客さまのクレームに「壊れる…」というのが多かったもので…壊れないことを重視して開発していることに確信が持てると、我々も自信をもって営業できます。

これあらた

意外と、作り手の思いと売り手の思いって同じだけれども、共有されていないのかもしれませんね。せっかくですから、開発・営業の両面からみて、どういう商品を作りどういう展開をしたら、もっとお客さまに喜んでいただけるか考えませんか?

AさんBさん

やりましょう、やりましょう、面白くなってきた!

上記は6時間近くのやりとりを圧縮していますが(笑)、「それぞれの主張」から「顧客本意の議論」に移っていったわけです。このように、発した言葉の背景、その人のキャリアの背景から整理していくことで議論が深まっていくものです。当たり前のように発した言葉を聞き逃さず、その当たり前を掘り下げていくことで本質的な議論になっていきます。

情報量に差がある参加者間での議論の整理

議論の過程で、参加者の背景知識の量に差があり、議論が平行線になり、知識の交差点を見いだせないこともあります。たとえば、役員と現場社員の座談会のような場をファシリテーションするときに生じます。

これあらた

今日の座談会、役員の皆さんから話し始めてしまうと講演会になってしまいますから、現場の皆さんから役員の皆さんに聞いてみたいことから入ってみましょうか。ご意見ある方いらっしゃいますか?

現場社員A

(少し間を空けて)はい。せっかくの機会ですので…失礼かもしれませんが、我が社は最近まったく変わろうとしているように思えないんです。雑談でも出てくるのでそう思っているのは私だけではないと思いますが…

現場社員B

ボクもそう思います。前は、もっと現場にきて色々と改善アドバイスもしてくれたし、距離が近かったというか…

役員X

いやいや、○○工場の機材を入れ替えて低コスト化、より環境によいことを意識した職場に変わろうとしているし、それ以外にも色々とやっているんだけどなぁ。知らない?

現場社員A

そうなんですね…知らなかったです。今度はうちの工場も…

役員Y

そうだね。でも、本当に何も知らないの?まぁ、たしかに派手な動きではないからなぁ。昔は見えやすかったと思うが…

これあらた

ちなみに、そういった会社の変化というか定期的な情報はどこで社員に伝わるようにしているのですか?

役員X

冨山さんもご存じの通り、社内報が一番かな。あと、幹部職にも部内MTG等で伝えるように指示している。社内報も見てほしいんだがなぁ。

これあらた

と、おっしゃっていますが、皆さんどうです?

現場社員C

社内報かぁ…

これあらた

あっ、読んでないって顔だね(笑)

現場社員C

役員Y

たしかに、ボクも若いころは読まなかったなぁ。

役員X

おいおい、それじゃあ社内報の意味がないじゃないか。まぁでも確かに最近、肉声で伝える機会は減ったかな…どうやったらうまく伝わると思う?

会話形式にしてしまうとずいぶん重要なところがそぎ落とされた気もしますが、大きな流れはこんな感じです。この後も続いていきましたが、この会社にとっては、きちんと掘り下げていくことで、以前のように伝わりにくくなった、会社が大きくなったことで、幹部の背景にある情報量と現場の情報量に差が付いてきたということに役員がきちんと目を向けるようになったというのが重要なポイントです。会社が大きくなっていくと、古株の方で偉くなった方ほど、昔と変わっていないと思いがちで、気づかないうちにどんどん現場との情報量の差が付いていきます。結果的に、現場に方針がうまく伝わらないということもおきがちになります。

まとめ

上記は一例ですが、議論をするときは言葉の意味、背景をきちんと整理しないと議論がズレることがあります。また、整理することで、議論が深まることもあります。少し難しいですが、「同じ言葉なのに違う意味」「違う言葉なのに同じ意味」というところに着目して、議論の整理を行なうだけで、議論は深まりますので、グループリーダーなど議論を仕切る立場の方々は参考にしてみてください。

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