組織風土は“迅速”に改革できるものなのか

冨山さん、色々な事例をお持ちでしょう?当社の場合、どれくらいで活力ある風土にできますか?みんな元気はないし、ミスは多いし…とにかく、急いで改善したいんです。

 これは、風土改革を依頼いただくときにいただく質問のひとつです。だいたい業績に関係する何らかの問題を抱えている状態なので、焦る気持ちもあり、コンサルに依頼するからには、迅速に変えてくれるのではないかという期待があるのは当然で、こういう質問をなさりたい気持ちは理解できます。

 多くのご依頼の場合、すでに業績に影響を与えるような、顕在化した問題があり、色々な手を打ったが、うまくいかず、風土や個人の意識、つまり、目に見えにくい部分に起因するのではないかと思っている状態であることが大半です。よって、そう簡単には状態を改善できず、時間がかかる事例がほとんどです。

 とはいえ、だいたいどれくらいの時間がかかるのかは知りたいものですよね。経験上は、土台を作るのに1年、変化の兆しが見えるのが1年半、本格的な変化は3年目からというところです。

 特に上場企業の場合、経営者の方々は短期的な成果を求められるプレッシャーもあり、どうしても焦りがちです。「早くなんとかしてほしい」というオーダーをいただくことも少なくありません。このような状況下で、長期的な視点の重要性を理解していただきながら、同時に短期的な小さな成果も示していくことが、私たちコンサルタントの重要な役割です。

 今回の記事では、生活習慣病の改善をイメージしていただきながら、組織風土改革にかかる時間の考え方について考えていきたいと思います。

 クライアント先で組織風土改革について説明するとき、生活習慣病の改善プロセスと対比しながら説明することがあります。

  1. 目的・目標を明確にする: 取り組む前に、目的と目標を明確にする必要があります。常に目的・目標に立ち返りながら進めることが成功に向けて重要です。
  2. 全体的なアプローチが重要: 特定の症状や問題だけでなく、生活全体や組織全体を見直す必要があります。
  3. 長期的な取り組みが必要: どちらも、長年かけて形成されたパターンを変える必要があることもあり、一朝一夕には解決できないことが多いです。
  4. 個人(または組織)の主体的な取り組みが不可欠: 外部からの助言は重要ですが、最終的には本人(または組織自体)が変わる意思を持つ必要があります。
  5. 小さな変化の積み重ねが大きな変化につながる: 一時的な改善だけでなく、持続的な変化を目指さなければなりません。また、劇的な変化を一度に求めるのではなく、小さな改善を積み重ねていくことが大切です。劇的な変化を求めると副作用が生じるのも同様です。
目次

風土改革にかかる時間を見積もるために考えるべき主な要素

1. 現在の風土に至ってから経過した期間

 生活習慣病が長年の生活パターンの結果であるように、組織の風土も長い時間をかけて形成されていきます。つまり、風土もそこに至るまでの期間が必ずあります。たとえば、次のようなイメージです。

  • 短期間の場合(1-3年): 比較的新しい習慣や文化は、生活習慣病の初期段階のように、まだ根深くなっていないため、比較的早く改善できる可能性があります。
  • 長期間の場合(10年以上): 長年培われた組織文化は、慢性的な生活習慣病のように、改善に多くの時間と努力を要します。5年以上の継続的な取り組みが必要かもしれません。

 組織風土の問題は、一見、業績に直結しないので後周りしがちですが、違和感の時点で改善を図ることが重要です。この違和感を感覚だけではなく、ある程度定量化して把握するためには、エンゲージメント調査が有効です。

2. 組織トップのコミットメントと参画意識

 生活習慣病の改善に本人の強い意思が不可欠なように、組織風土の改革には対象となる組織のトップの強いコミットメントが必要です。

  • 強いコミットメント: トップが率先して変革を推進し、自ら行動を変える姿勢を見せれば、期間を短縮することが可能です。
  • 弱いコミットメント: トップの意識が低ければ、生活習慣病患者が半信半疑で治療に臨むように、組織全体の変革は進みません。この場合、有意義な変化には5年以上かかるか、あるいは改革はまったく進まないかもしれません。中心的に変革に関わる従業員も、トップのコミットメントが弱ければ動きにくく、だんだん活動が形骸化していくことが多いです。

3. 外部環境の影響

生活習慣病の改善が周囲のサポートや社会環境に影響されるように、組織風土の改革も外部要因に大きく左右されます。

  • 強い外部圧力: 業界の急激な変化や競合他社の躍進など、業績の不安定化につながるような強い外的要因がある場合、組織は生存のために急速な適応を迫られます。これは、重大な健康イベントが生活習慣の即時改善を促すのに似ています。このような状況下で、適切な改革プロセスを踏めば、期間をかなり短縮することができます。ですが、これが強すぎると、諦めになってしまう場合もあり、いわゆる必要以上に従業員を「あおる」ことは適切ではありません。
  • 穏やかな外部環境: 外部からの変化の圧力が弱い場合、組織は緩やかな改革ペースを選択しがちです。これは、明確な健康上の警告がない場合に、生活習慣の改善が遅々として進まないのに似ています。この場合、有意義な変化が見えにくい場合もあります。

超短期で風土を強引に変えることはできるのか

 実は以前、「当社にお任せいただければ、まず6ヶ月で風土が変わるキッカケづくりをします。まずは6ヶ月契約で。」というコンサル会社が、あるクライアント先でのもう一社のコンサル先の候補だったそうです。一旦はそちらにお任せしたようですが、結果的に6ヶ月で何も変わらず、しかもその原因をクライアントの本気度の低さだと言われたようで、改めて弊社にご相談をいただきました。

 もちろん、超短期でガラッとかえることは難しくても、6ヶ月で道筋を付けることはできると思いますし、絶対に失敗するとは言い切れません。ただ、短期で成果を出そうとする上での一番の問題点は、本質の変化を求めることは難しいので、表面的な組織の変化を徹底的に追い求めて、変わった感覚を作り、そこから社員の前向きな意識を作り出そうとする方法が一般的ですが、これはやり方を誤ると荒療治になってしまいます。

荒療治には必ず副作用がともなうものです。

 短期的な変革を目指す手法は、往々にして強引な手段や極端な方策を用いることがあります。これらは一時的に効果を示すかもしれませんが、長期的には予期せぬ悪影響をおよぼす可能性があります。たとえば、

  1. 従業員のストレスや不満の増大
  2. 本質的な問題の見落としや隠蔽
  3. 一時的な成果後の急激な後退
  4. 組織の持続可能性や長期的競争力の低下

 特に注意したほうがよいのは、真面目であまり意見を言わない社員が多い会社です。以下のような状態が生まれ、短期間で本質的にも変わったのではないかという錯覚をもたさす確率が高まるからです。

  1. 表面的な同調: 真面目で控えめな社員は、短期的な変革プログラムに表面的に従うかもしれません。しかし、これは本質的な変化ではなく、単なる同調行動に過ぎません。
  2. 潜在的な不満の蓄積: 意見を積極的に言わない社員は、急激な変化に対する不満や不安を内に秘めてしまう傾向があります。これが長期的には、モチベーションの低下や離職率の上昇につながる可能性があります。
  3. 真の課題の見逃し: 社員が率直に意見を言わない環境では、組織の本質的な問題点が表面化しにくくなります。問題がないようにすら見えてしまうこともあります。

 こういった副作用を十分に把握した上で、それでも短期的な変革を選択するのであれば、それは経営判断として尊重されるべきでしょう。確かに、企業の存続が危ぶまれるような危機的状況では、副作用を覚悟してでも短期的に見せかけでも変えないといけない場合もあることは理解できます。こういった場合であっても、短期的なプロセス(特効薬)と長期的なプロセス(目的・目標を明確にした生活習慣の改善)は並行して動かすことが望ましいといえます。

 少なくとも短期的な急改善だけを徹底的にもとめるようなアプローチは、おすすめしません。真の組織風土の改革は、表面的な変化だけでなく、組織の根幹にある価値観や行動パターンの変革を必要とするからです。これには時間がかかりますが、その分だけ持続可能で本質的な変化をもたらします。

まとめ:長期的視点と小さな変化の重要性

 結局のところ、組織風土の改革は、生活習慣病の改善と同様に、短期的な対症療法ではなく、長期的で持続的な取り組みが必要です。即効性のある「特効薬」はなく、日々の小さな変化の積み重ねが、最終的に大きな変革をもたらします。

 しかし、特に上場企業の経営者の方々は、短期的な成果を求められるプレッシャーも大きいのが現実です。このような状況下では、長期的な視点を持ちつつも、小さな変化や成果を逐次伝えていくことが非常に重要です。たとえば、

  • 部門間のコミュニケーションが少し活発になった
  • 特定のプロジェクトで従業員の自主性が向上した
  • 顧客満足度調査で小さな改善が見られた

 これらの小さな変化を的確に捉え、経営陣に伝えることで、長期的な取り組みへの理解と支持を得ることができます。適切な間隔でエンゲージメント調査、意識調査などを実施することで、定量化しておくことも効果があるでしょう。

 組織風土改革は確かに長い道のりですが、その過程で生まれる小さな変化の一つひとつを見逃さないことが大切です。子供を久しぶりに見なければ、背丈が伸びたことに気づきますが、毎日見ていると気づかないこともあります。風土も同じように、少し俯瞰する視点で見ることで、変化に気づくこともあります。

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