従業員意識調査を実施するときは、回答者が安心して回答できる環境を真剣に考えてほしい

 最近は、コロナ禍・人的資本経営の関連もあって、従業員意識調査(エンゲージメント調査、モチベーションサーベイ)をおこなう企業が増えてきました。労務行政研究所の調査によれば、2022年の調査では従業員満足度調査を実施している企業は33.9%、エンゲージメントサーベイを実施している企業は15.4%存在しています(参考:日本総研_従業員意識調査から始める組織改革)。当社はこの意識調査商品を提供しているわけですが、他の業務を通じて顧客先で実施している従業員意識調査の話題になることも増えました。

 私が気になるのは、調査担当者の方が、調査の分析結果には興味を持つが、調査データを集めるプロセスに興味を持たない方のときです。調査データを集めるプロセスとは、つまり従業員にアンケートに答えてもらう環境のことです。従業員に本音で答えてもらわないことには、真の状態はわからないわけですし、正しい分析もできません。そのためには、安心して回答いただける環境が必要なわけです。簡単に言うと

  1. 調査の目的がきちんと伝わっているか
  2. 回答者に答えてもらう属性(所属部署、役職、年代など)が細かすぎないか?
  3. 誰が回答したかわからない安心な環境を構築しているか

この3点をキッチリと作り込むことが大切です。特に2については、

でも、属性を細かくしないと分析のとき困るじゃないですか?

とおっしゃる意識調査の担当者の方もおられます。確かにその通りです。分析側の視点では細かいに越したことはない。しかし、私がこう問いかけると、

では、あなたが回答者だとして、この回答者属性を入力した後に、本音で答えられますか?

そりゃ、答えにくいですけど、本音で答えるのが社員の義務じゃないですか。

では、角度を変えて伺いますが、あなたが上司からハラスメントを受けていると思っていたとして、本音で答えられますか?

 ここで、黙り込んでくれる方であればまだよいのですが、中には、自分の業務としての役割だけにこだわって、絶対細かくしないとダメと言い続ける方もおられます。

 本気で質の高い調査にしようと思うならば、従業員に本音で答えてもらう必要があります。つまり、心理的な安全性は欠かせません。もし記名調査で実施するなら、よほどの会社や上司に信頼、もしくは絶対にバレないという安心感がなければ、本音で答えることはないでしょう。

 分析側のメリットと回答者側のメリットの間で綱引きをしながら落とし所を探らないといけないので面倒ではあるのですが、組織を持続的に改善していくことが目的の意識調査であれば、本音で答えてもらうことにこだわった調査にしなければ意味がありません。

 ただ、ここからは少しグチめいた話になりますが、そうでない意識調査を望む企業もあります。外部向けに出すので、結果が悪いと困る。かといってねつ造はできない。さらにいえば、あまり細かく見えすぎても困る。ということで、下記のような条件で意識調査を実施しようとするわけです。

  • 個人名を書かせた上で、もしくは、極めて細かい回答者属性設定で調査を実施する
  • 自由記述欄は設けない
  • 調査の結果、点数が低い質問は、その後一ヶ月ごとに調査を実施する

 私にとってはあり得ないのですが、実際こういった調査をしている企業があります。ただ、この調査のやり方、かなりの高確率で高い得点になります。なぜなら、回答者にとって面倒以外の何物でもないからです。何か書いたからといって対策してもらえるわけでもなければ、悪く書けば悪く書いた項目に限り、毎月アンケートに回答させられるわけです。良くなったか?良くなったか?と毎月聞かれるわけです。

 従業員からしてみれば、「はいはい、よく書けばいいんでしょ」となって、良い点数を書くようになります。こういった誤った調査を通じて、経営陣が自社の状態を誤解することもあります。

 正直、こういった調査は社員の心が離れていくので、百害あって一利なしなのですが、調査の点数が良いと担当者の人事評価が良くなる会社もあるんです。逆に点数が悪いと、担当者は改善しろと言われるのでイヤがる人もいるわけです。当社もこういった調査をお願いされて、断ったことが数回あります。

 意識調査が普及することは、こだわってきた私としては大変嬉しい話ですが、従業員の本当の声を集めた上で分析をするという正しい姿で実施するところが増えてほしいと願っています。

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