焦りが生む風土改革の誤解 – 短期対応と長期変革の両立

 風土改革が求められる背景には、多くの場合、組織が直面する大きなトラブルや危機があります。たとえば、重大な品質事故の発生、コンプライアンス違反の発覚、従業員のメンタルヘルス問題の増加、離職率の急上昇、顧客満足度の著しい低下などです。こうした危機的状況において、経営者が「組織の風土を変えなければならない」と決断するのは自然なことです。

 実際、最近大きなトラブルで企業が会見するときは、必ずといっていいほど「風土改革」という言葉がはいります。危機に直面している以上、経営者が早急な変化を求め、焦りを感じるのは当然のことです。事態を速やかに改善し、ステークホルダーからの信頼を取り戻すという責任があるからこそ、風土改革に期待が集まります。

短期と長期の視点を持つ必要性

 しかし、組織風土はそう簡単に変わるものではありません。長年かけて形成された価値観や行動様式は、一朝一夕に変えられるものではありません。確かに、危機的な状況で、全員が一丸となってその会社を建て直したいと、意思が統一されていれば変わると思いますし、経営者の多くもそう願っています。 ですが、現実はそのような状態になったときに、できる社員ほど転職を考えます。皆さん生活もありますし、他社・他業界でもやっていける力がある人ほど、ある程度の再生への確信がないかぎり、一丸という気分にはなれないものです。

 そういった背景を踏まえると、風土を変えるという表現は極めて抽象的に聞こえます。風土改革は重要とは誰もが思いつつも、多くの社員はずっと前からその必要性を実感していることが多く、「今更か…」という気持ちがもたげることも少なくありません。

 よって、風土改革は時間がかかるものという正確な認識のもと、現実的なアプローチとしては、即効性のある施策と長期的な施策を併用しながら対応していくことが重要です。

即効性のある施策の例
  • 明確なルールや規則の制定・改定
  • 明確な課題に対する管理職への集中的な研修プログラム
  • 即効性のある業務プロセス改善
  • 問題解決のためのタスクフォース設置
  • クライシスコミュニケーションの再確認
長期的な施策(風土改革+α)の施策例
  • 経営と現場、管理職と現場など多面的な議論の場を通じた、多面的な情報が集まる環境の構築
  • 本質的な課題の発掘
  • 組織の価値観の再定義と浸透
  • 評価・報酬制度の抜本的な見直し
  • 長期的な人材育成プログラムの構築
  • 経営と社員の信頼関係の再構築
  • ミドルマネジメントの意識・行動変革

 ちなみに、当社が風土改革を請け負うときには、S字カーブのような変化が生まれることをお伝えしています。つまり規模にもよりますが、土台作りフェーズの1年目、2年目は効果が見えにくく、加速フェーズの2〜3年目から効果が加速し始め、定着フェーズの3年目以降でより大きな効果が表れるということをお伝えしています。

 このように風土改革は魔法の杖ではなく、地道な土作りに近いものなのです。

短期的成功が生む罠

 より問題なのは、短期的な施策でうまくいった気になって、長期的な施策を途中で中断してしまうことです。たとえば、緊急対応のための新しいルールを導入した結果、一時的に問題が収まったように見えると、「これで解決した」と安心してしまうケースがあります。

 しかし、根本的な組織風土の課題に取り組まなければ、同様の問題は必ず再発します。短期的施策は応急処置に過ぎず、長期的な風土改革こそが本質的な治療なのです。

 経営と社員の信頼関係の再構築は、特に重要な要素です。この信頼関係の構築には様々な方法があります。

  • 経営陣による現場との対話の継続
  • 意思決定の背景や理由の透明な共有
  • 失敗から学ぶ組織文化の醸成
  • 社員の声に真摯に耳を傾ける仕組みづくり
  • 小さな成功体験の共有と称賛
  • 定期的な部門間コミュニケーション・交流の場
  • サイレントマジョリティの声に耳を向ける意識

 これらは即効性があるようには見えないため、つい後回しにされがちです。しかし、この信頼関係こそが風土改革の基盤となります。

 風土改革は短距離走ではなく、マラソンです。焦りの中にあっても、短期と長期のバランスを取りながら、着実に前進することが求められます。

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