データを鵜呑みにする怖さ:多面的思考の重要性

 「それ、データはあるの?」「それ、ソースは?」

 職場でもこのような会話が展開される場面は増えているのではないでしょうか。なのに、なぜか、そのソースやデータが提示されると、その出典や分析方法には着目せず、客観的に示されたデータとして鵜呑みにするような場面も見受けられます。

 今はオープンデータも含めて、様々なデータが氾濫しています。実際ネット記事に載っているデータをみると、ものすごく少ないデータ数に基づいて生成されたグラフが使われていることもあります。つまり、記事の根拠として、パパッと集めたという感じのデータであり、間違っているとはいいませんが、信頼性は低い可能性が高いです。

 言い換えると、データさえ提示されれば信頼する人が多いという状況を逆手にとって、信頼性に欠けるデータが大量に生成されているとも言えます。

 もちろん、データは重要です。ICTの発達により、データ収集の技術・分析力が高まり、データに囲まれた世界に生きていいます。実際、ビジネス、教育、医療、そして日常生活のあらゆる場面で、データが重要な役割を果たしています。確かに、客観的なデータは意思決定や問題解決に不可欠です。しかし、信頼性の低いデータも含め、データへの過度の依存は、私たちの思考力を奪う危険性をはらんでいます。本記事では、データ社会における多面的思考の重要性について考えてみたいと思います。

データ依存の落とし穴

 「データがあれば間違いない」—— この考え方は、一見合理的に思えますが、実は大きな落とし穴を隠しています。データの存在が私たちに安心感を与え、その結果、多面的に考える機会を奪ってしまうのです。

 たとえば、ある商品の売上データだけを見て「この商品は人気がある」と即断してしまうことがあります。しかし、そのデータが示す期間や対象顧客層、競合商品の状況など、様々な要因を考慮せずに判断をくだすのは危険です。データがあることで、その背景にある複雑な要因を見落とし、表面的な解釈に満足してしまう。これが、データ依存の最大の落とし穴ではないでしょうか。

思考の制限:データの延長線上での解釈

 データに頼りすぎると、私たちの思考はそのデータの延長線上でしか動かなくなってしまいます。つまり、データが示す範囲内でしか考えられなくなり、創造的な発想や直感的な判断を軽視してしまうのです。

 ビジネスの世界では、過去のデータに基づいて将来の戦略を立てることがよくあります。しかし、急速に変化する市場環境において、過去のデータだけに頼っていては、社員のアイデア・発想を活かすことができず、革新的なアイデアを見逃す可能性があります。

自ら考えることの放棄

 さらに深刻な問題は、データの存在によって「自分で考える」という行為そのものを放棄してしまうことです。「データがあるのだから、考えなくても答えは出ている」という錯覚に陥りやすくなります。

 この傾向は、教育の場面でも見られます。学生がインターネット上の情報をそのまま引用し、自分の言葉で考え、表現する機会を失っているケースは少なくありません。長期的に見れば、これは多面的思考力の低下につながる深刻な問題です。

フェルミ推定:データがない時こそ、多面的思考の出番

 ここで、データが不足している状況下での思考法として、フェルミ推定について触れてみましょう。フェルミ推定とは、正確なデータがない場合でも、問題を複数の側面から分解し、それぞれに対して合理的な推測を行うことで、おおよその答えにたどり着く方法です。

たとえば、「日本の年間靴販売数は?」という問いに対し、以下のように考えることができます。

  1. 日本の年間靴販売足数
  2. 日本の人口:約1億2600万人
  3. 1人あたりの年間靴購入数:2足と仮定
  4. 靴を購入しない人の割合:20%と仮定

これを計算すると、次のようになります: 1億2600万 × 2 × 0.8 = 2億160万足

 この推定値は、もちろん正確な数字ではありませんが、規模感をつかむには十分です。重要なのは、この過程で様々な角度から問題を考察している点です(上記例は簡略化していますが、本来は性別・地域別・年代・家族構成などで分類して精度を高めます)。フェルミ推定を用いることで、信用するに足らないデータが信用に足るかを推定する上でも役立ちします。

バランスの取れたアプローチ

 では、どうすればよいのでしょうか。答えは、データと多面的思考のバランスを取ることです。データを重要な情報源として活用しつつ、それを鵜呑みにせず、様々な角度から検討する姿勢が重要です。

具体的には以下のようなアプローチが有効でしょう:

  1. データの出所や収集方法を常に確認する
  2. データが示す範囲外の可能性を考える
  3. 自分の経験や直感とデータを照らし合わせる
  4. 「なぜ」「他にどんな見方ができるか」という問いを常に持つ
  5. フェルミ推定のように、問題を複数の側面から分解して考える

結論

 データ社会において、多面的に思考する力はますます重要になっています。データは私たちの思考を助ける道具であって、思考そのものの代替にはなりません。

 一番危険なのは、データを用いることで、実際には思考していないのに、思考した感覚を覚えてしまうことです。データの活用は大切ですが、自分自身の実感や経験も大切にしながら、矛盾があるのであればそれを解消することも意識して、結論を導くことを意識していただきたいと思います。

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