研修をe-learning型に移行することで生じるデメリット

 人材不足、働き方改革、コスト削減…。集合型研修をe-learningに切り替える背景には、もっともな理由がいくつもあります。実際、私たちがクライアント企業の人事担当者と話していても、「人手不足や働き方改革もあって、一度に集めるのが難しく、○○研修はe-learningに移行した」という声をよく耳にします。

 最初に申し上げておくと、e-learningそのものを否定するつもりはありません。コンテンツの質も学習管理システムの機能も年々進化しており、適切な領域においては極めて有効な教育手段です。実際、知識のインプットや法令の周知などはe-learningのほうが効率的かつ確実な場面も多いでしょう。問題は、e-learningか集合型かという手段の選択を、研修の目的と切り離して行ってしまうことにあります。

e-learning型研修へのシフトの実態とその背景

 産業能率大学総合研究所が2025年2月に発表した「通信教育およびeラーニングの活用実態調査」(調査期間:2024年9月〜11月、有効回答179社)によれば、現在企業で実施されている教育手段のうち最も多いのはe-learningで75.4%。これは2019年の同調査と比較して17.8ポイント増加しています。

 注目すべきは、同じ調査でe-learning以外のすべての教育手段の実施率が低下していることです。「民間教育訓練機関の講習会・セミナーへの参加」は33.5ポイント減少、通信教育も20.5ポイント減少しています。つまり、これは単なるe-learningの上乗せではなく、他の教育手段からの置き換えが起きていることを示唆しています。

 矢野経済研究所の2025年調査でも、企業向け(BtoB)eラーニング市場は前年度比7.8%増の1,232億円と堅調に成長しており、人的資本情報の開示義務などを背景に、企業のe-learning投資はむしろ加速傾向にあります。

 また、先に触れた産能大の調査では、e-learningの効果についても質問がなされています。「学習したメンバーが満足している」「情報や知識を獲得できている」といった項目では効果を認識する企業が多い一方、「学んだことを現場で実践している」「個人の行動が変化している」といった行動変容、「部門・部署のパフォーマンスが向上している」といったパフォーマンス変化については、効果を感じている企業は多くないようです。そして「効果測定をしていないため分からない」と回答する企業が高い割合を占めています。

つまり、実施率は上がっている一方で、行動変容としての効果は確認できていない、あるいは測定すらしていないという状況も一定程度あるわけです。

 ここからは主観ですが、「やっている」量が増えているが、「効いている」状況が増加しているとはいえないわけで、むしろ対面でない分、効果は見えにくくなっていると言ってもよいのであろうと思っています。

「取り組ませた実績」があっても「学んでもらって業務に生かす」効果がない危険性

 研修には、大きく二つの機能があります。一つは、企業として教育機会を提供したというコンプライアンス対応や教育機会の提供という意味での実績づくり。もう一つは、受講者に本質的に学んでもらい、行動変容につなげることです。技術系の専門研修などは、業績に直結するので否応にも後者のメリットにつなげないといけないのですが、組織づくりや法令遵守に必要なビジネス研修では、問題が生じていない環境下では業績への直結を感じにくく、前者が重視される傾向は否定できません。むしろ、組織のパフォーマンスを最適化するには、ビジネス研修でも後者が重視されないといけないのですが…

 とはいえ、「該当者には○○研修を受講させていました」と説明できる状況は、問題が起きたとき、たしかに企業の管理責任を果たすうえで一定の役割を果たします。ハラスメント研修、コンプライアンス研修、情報セキュリティ研修などのビジネス研修はその典型です。

 しかし、本当に問題を起こさせない、かつ、健全な組織づくりのためには、受講者が内容を理解し、自らの行動を変える必要があります。動画を流して理解度テストにチェックを入れただけで、本当に行動が変わるでしょうか。「実績はあるが、効果はない」という状態は、人材能力の最大化という本質的な目的を果たしていないばかりか、むしろリスクの所在を見えにくくする危険すらあります。

集合型・ロールプレイ型でしか得られないもの

 e-learningが不向きな領域が、いくつかあります。とくに他者の挙動から学ぶ必要がある領域では、集合型研修の優位性は明らかです。これはビジネス研修でも技術系専門研修でも同様です。

 たとえばハラスメント研修において、ある言動が相手にどう受け止められるかを知るには、ロールプレイで実際に他の参加者の反応を見るのが最も効果的です。「自分はそのつもりがなくても、こう受け取られるのか」という気づきは、テキストや動画では得にくい。マネジメント研修や1on1のスキル研修も同様で、相手役を立てて実際にやってみることで初めて、自分の癖や不足が見えてきます。自分が他者に行動を示してこそみえる、気づきというものがあります。

 加えて、人の目があるからこそ真剣に取り組むという側面も無視できません。e-learningは、業務の合間に「ながら受講」されてしまうことが少なくありません。倍速再生で済ませる、別タブで他の作業をしながら流す、テストだけ受けて終わらせる——そうした実態は、多くの人事担当者が薄々気づいているはずです。集合型研修は、その場に拘束されることで、最低限の集中を担保できる仕組みでもあります。

「自律した人材」という前提の危うさ

 e-learning推進の議論では、しばしば「学びたい人は主体的に学ぶ」「自律的な人材を信頼する」という前提が置かれます。すなわち、主体性のない社員は不要だという「ベキ論」から入ってしまいがちです。

 そこまで自律した人材(自分の課題に自分で気づける人材)ばかりならよいのですが、実態はそうではありません。

 組織の中には、自律的に学ぶ人もいれば、機会を与えられても活かせない人もいます。とくに問題なのは、自分の課題に気づいていない、あるいは気づこうとしていない人です。問題を起こすのは、たいていこうした人たちです。本人が「自分には関係ない」と思っているからこそ、e-learningは流し見で終わり、行動も変わらない。後者の比率がゼロでない以上、「学習を本人の自律性に委ねる」設計は、ある一定割合の受講者を実質的に放置することと同義です。

 とくに、リスクマネジメント目的の研修(ハラスメント、コンプライアンス、安全衛生など)においては、「気づかなかった人」がそのまま問題行動の予備軍になりうる。ここを軽く見ると、昨今報道されているような社会人として信じられない行動がなされ、炎上につながる可能性すら生じます。

ブレンデッド研修という選択肢

 もちろん、すべてを集合型に戻すべきと言いたいわけではありません。e-learningが適している領域は確実にあります。

 知識のインプットが中心で、理解度を客観的に測れる内容、たとえば法令の概要、社内規程の周知、業界知識のアップデートなどはe-learningで十分に機能します。一方、態度変容や対人スキル、判断力を養う研修は、集合型かつロールプレイを含む形式でなければ効果が出にくい。この見極めをせずに「全部e-learningで」と一括りにしてしまうと、肝心な部分の教育が空洞化します。

 近年広まりつつあるブレンデッド研修(研修実施の方法を織り交ぜる研修形態)は、この問題に対する一つの解です。事前の知識インプットと事後の振り返りをe-learningでおこない、その間に集合研修を挟んでロールプレイやディスカッションを実施する。集合研修の時間を「人が集まらないとできないこと」に集中させる設計です。e-learningか集合型かの二択ではなく、それぞれの強みを活かした組み合わせを考えるほうが、現実的かつ効果的でしょう。

 人を集めるための時間確保や日程調整が難しいという事情は、私たちもよく理解しています。それでも、人材育成リスクマネジメントの観点から、年に一度でも、対象者を絞ってでも、集合型研修を残す価値は十分にあると考えます。

おわりに

 研修の設計は、企業の人材戦略そのものを映す鏡です。「実施した記録」を残すことに最適化された研修体系になっていないか、一度棚卸しをしてみてはいかがでしょうか。e-learningか集合型かは手段の選択であって、目的は「人材の能力を最大化し、リスクを最小化すること」のはずです。

 手段が目的化した瞬間、研修は単なるコストになります。そうならないために、いま一度、研修の「中身」と「形式」の整合性を見直していただきたいと思います。

 余談ですが、人事研修担当としても、本来は集合型がよいと思っていても、他部門(人材を割かれるという視点)や経営(コストの視点)で集合型研修を嫌がられ、結果としてe-learningにせざるを得なくなって困っている担当者もおられます。このような場合は、すべてe-learningにしてしまうリスクも示しながら、研修を委託している事業者とともに説得に回るというのも一つの手段でしょう。


参考データ出典

  • 産業能率大学総合研究所「通信教育およびeラーニングの活用実態調査」(2025年2月発表)
  • 矢野経済研究所「eラーニング市場に関する調査(2025年)」
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