エンゲージメント調査というと、社員の満足度を測ることを主目的であるという誤解が、まだまだあると思っています。もともとES調査・従業員満足度調査という表現が主流だった時代は、決して誤解ではなかったのですが、エンゲージメントという概念のもと、組織と従業員の関係性をより深く理解し、双方向の価値創造を目指す取り組みへと進化してきました。
私自身、ES調査・従業員満足度調査が主流だった時代から、従業員意識調査という形で、今でいうエンゲージメントの考え方にこだわって取り組んできました。単なる満足度だけでなく、組織と従業員の間にある様々な課題や可能性を見出すことが重要だと考えてきたからです。
エンゲージメント調査では、社員と組織の間の双方向の関係性に注目します。高いエンゲージメントが実現している状態とは、以下のような特徴を持ちます。
- 社員が組織の目標や価値観に強く共感している
- 社員が自発的に貢献しようとする意欲が高い
- 組織は、方針の具体化・一貫性を意識する
- 職場での良好な人間関係が築かれている
- キャリア開発の機会が適切に提供されている
「エンゲージメント調査なんて、やったってどうせ社員は本音を書かないから意味がない」という声を聞くことがあります。たしかに本音が書かれないこともあります。一方、大半の回答が本音ではないことが統計的に見えてくるのであれば、それは組織に心理的安全性が欠如している可能性を示す重要なシグナルとなります。つまり、回答の傾向自体が組織の重要な課題を浮き彫りにすることもあります。
さらに、エンゲージメント調査の数値を定点で観測し続けることは、経営判断において非常に重要な意味を持ちます。この定量的なデータは、組織の状態を客観的に把握するための「事実」として蓄積され、より確かな経営、特に人的資本の観点からの判断の質を高めることにつながります。感覚や推測ではなく、データに基づいた組織運営を実現する上で、この定点観測も効果的になります。
エンゲージメント調査の真の価値は、単なる現状把握にとどまりません。この調査を通じて、組織が直面している潜在的なリスクを早期に発見することができるのです。たとえば、
- コンプライアンス違反の予兆
- 離職リスクにつながる組織的な課題
- 事業推進上の推進の障害になっている要因の推定(ハード面、ソフト面ともに)
- チーム間のコミュニケーション不全
- リーダーシップの問題
これらの課題を早期に発見し、適切な対策を講じることで、組織は大きな問題に発展する前に必要な改善をおこなうことができます。つまり、エンゲージメント調査は、組織を守るための「予防医学」としての役割を果たすことになります。
定期的なエンゲージメント調査の実施と、その結果に基づく具体的なアクションの実行は、健全な組織づくりの基盤となります。これは単なる「調査」ではなく、組織の持続可能な発展を支える重要な経営ツールです。
たかがエンゲージメント調査でと思う方もいらっしゃると思いますが、エンゲージメント調査を軸として、データドリブンな経営の一助にもなり、組織の課題の予防にもつながり、さらには、エンゲージメント調査の結果に基づいて対策を練っていく過程は確実に人材育成につながります。
適切にエンゲージメント調査を導入し運用すれば、良いことずくめなのですが…
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