改革方針は正しくても手段が間違っている ~ 社長の見る絵姿と社員の見る課題感は違う ~

今度、業績を伸ばすために、○○の改革を進める。これをやれば、絶対に間違いない!

いやぁ、社長のおっしゃるとおり!うまくいかないわけがありません!

んなわけないでしょうよ…ぜんぜん、現場のことわかってないな、うちの社長は。かといって、そんなこといったら、大変だしなぁ…黙ってやったふりしておこっと。

 これは、私がコンサルティングで関わった会社で起きていたことです。一社や二社ではなく、この光景は決して珍しいものではありません。特に業績が右肩下がりで、将来への不安を抱える企業では、よく目にする光景です。

 ここで誤解してはいけないのは、これは決して社長が現実逃避をして、的外れな判断をしているわけではないということです。多くの社長は本当に必死なのです。このままではいけないという危機感から、様々な改革案を必死に模索しています。 ただし、その改革案を考える過程として、社内に目を向けるのではなく、経営者仲間との会話や、ビジネス書、セミナーなど、社外の情報に基づいてひとりで決めていることが多いです。つまり、自社の現場の声を基にしているわけではありません。

 そして、ある「解」にたどり着いたとき、それが正解だと強く確信してしまう。周りの意見は耳に入らなくなり、「これさえやれば」という思い込みが強くなっていきます。

 実際、現状を否定しなければいけない状況で、現状(社内の意見)を聞いても意味がないと考えている社長もおられました。また、実際居心地のよい会社で、社長自身も、社員に負担を掛けたくないから、自分だけで考えたという社長もおられました。

内部データをもとに議論する

 社長に直接、物はいえないながらも、こういう状態を憂慮する社員はおられます。実際、そういう状況でご相談があり、従業員意識調査を提案したことがあります。

 こういう社内状況で従業員意識調査をやっても、初回からなかなか本音に近い回答が得られるものではありません。回答率や点数が高かったとしても、どちらかというと、自由記述でも、自分をアピールするようなものが多くなる傾向にあります。

 一方、日常の場面では調査に対して、以下のような声が聞こえてくるわけです。

「このアンケート、本当に匿名なの?」
「正直に書いて、後で影響があったらどうしよう…」

また、社長からは結果を見たときに、仮に一部、真剣に憂慮する考えをもとにした提案があったとしても、

「これは一部の不満分子の声が大きく出ただけだ」
「耳を傾けたら、意志が揺らぎそうだ。止めておこう。」

というふうに、異論を封殺する傾向があります。ただこれは防御姿勢を取っているに過ぎず、本当にそう思っているかは別です。

ただ、こういった調査は、回を重ねるごとに以下のような状況が生まれてくることがあります。

  • 2回目、3回目の調査で、従業員の回答が徐々に率直になっていく
  • 社長が「この指標の低さは、確かに気になるな…」と呟く瞬間が増える
  • 中間管理職から「こんな改善案はどうでしょう」という前向きな提案が出始める

 これと、離職率・理由、生産性の変化(無変化)などを併用しながら、伝えていくと少しずつ社内状況に耳を傾けてくれるようになります。

社長の方針は間違っていない、手段が間違っていることが多い

 では、社長の改革方針が間違っているのかというと、私の知る限り、よほど変な社長でもないかぎり、方針が誤っているというのは見かけません。だいたいは、手段が間違っています。他社や好事例を参考にするあまり、自社にフィットしない手段を提示しがちです。好事例を参考にしつつも、自社の現状を踏まえて段階を踏んで進めていくプロセスを踏みたいところです。

 改善を急ぎたい状況にあることは理解できますが、まさに「急がば回れ」を無視した結果、スピード感を要求した施策を次から次への逐次投入し、成果を生まず、むしろ社内に諦め感を生ませるという悲劇的な会社もみたことがあります。

 そういう意味でも、まずは社長に社員の意見に耳を傾けてもらえる状況を作り出し、地に足の着いた改革手段で進めていくことが大切です。

こういうときこそ、コンサルタントやシニア人材の活用を

 社長に社内に目を向けてもらえるまでの過程では、データを活かしつつも、当然、社長の考えの浸透や、それに対する各層の社員の意見を拾っていく必要があります。丁寧に対話をすることが得意なコンサルタントを活用すると、各層との信頼関係の中で、本音を聞き出し、非常に有用なとりまとめをしてくれることがあります。実際、社員としても社内で話すよりは、話しやすいと思って話してくれることもあります。

 コンサルタントとの契約が難しい場合は、再雇用のシニア社員の活用が効果的です。シニア社員の中には、年代関係なく顔が広く、若手も含めて、色々な方と話せる方がいらっしゃいます。こういった方にこそ、こういう状況で活躍していただくというのも非常に魅力的なシニア人材活用ではないかと思います。

 「会社の方針も施策も偉い人が考えることでしょ」と思う方もおられると思います。それはそれで結構です。ただし、「この会社を私はなんとかしたい」と思う方も実は社内にはたくさんおられるものです。そういった方々でプロジェクトを組んで、方針に基づいた目標を実現するために、より有用な施策に作り替えていければ、誰にとっても価値のある将来を目指せるものだと思います。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次